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最高裁判所第三小法廷 昭和60年(あ)92号 決定 1985年3月29日

本籍

静岡県浜松市鍜治町九五番地

住所

同 浜松市舘山寺町二八五七番地

会社役員

藤野榮一

昭和七年九月九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五九年一二月一七日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人からの上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人杉山年男、同荒川昇二の上告趣意は、違憲(三六条)をいうが、その実質は量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 長島敦)

昭和六〇年(あ)第九二号

○ 上告趣意書

被告人 藤野榮一

右の者に対する所得税法違反被告事件について弁護人の上告趣意は次のとおりである。

昭和六〇年二月二一日

右弁護人 杉山年男

同 荒川昇二

最高裁判所第三小法廷 御中

理由

原判決は憲法第三六条に違反し、かつ刑の量定が甚だしく不当であってこれを破棄しなければ著しく正義に反する。

1 原判決は一審判決が重過ぎて不当であるとは言えないと述べている。

しかし、被告人が本件発覚後、すみやかに本税、延滞税の全額、重加算税の一部を納付したことにより、国家の徴税権は早期に実現されているのであり、実質的に刑罰を課する必要性が乏しくなっていたと言わなければならない。

2 しかも被告人は、国税当局の調査に協力し、同調査結果に全面的に沿う修正申告をなし、捜査に終始協力的態度をとってきたため、本件捜査は他の同種事案に比して著しく容易であったはずであるところ、従順な被告人に対しても原判決のような態度で臨むことは今後、捜査困難な脱税事件についていたずらに否認させる役割を果たすものである。

3 さらに、被告人が本件犯行を犯さざるをえなかった主観的事情、蓄財の経過等に鑑みれば、被告人こそ勤勉の従として模範視されるべきであるところ、被告人に対し原判決のような態度で臨むことは、被告人から勤労意欲を失なわせる役割を果たすものである。

4 以上のことからすれば、原判決が被告人に対して懲役一年、執行猶予三年、罰金二、五〇〇万円に処した一審判決を是としたことは、不必要に重過ぎるという意味で残虐な刑罰を課したもので憲法第三六条に違反し、かつ刑の量定が甚だしく不当であることも明らかであり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものである。

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